研究大会

第13回研究大会《関西大会》 

 確かな手応えの残る研究の一日

平成28年12月3日、関西国際大学尼崎キャンパスの美しいホールを会場に、大村はま記念国語教育の会第13回研究大会《関西大会》が開催された。確かな手応えと、重要な宿題を得た一日となった。以下に、実行委員の中西一彦理事の総括と、本会の湊吉正会長による「展望」を掲載する。なお、会報「はまかぜ」34号に、当日の研究・実践発表の報告,および第1回大村はま奨励賞を得た山本賢一氏の受賞論文を掲載している。ご覧になりたい方は、本会事務局までご連絡を(hokokugo@gmail.com)

 関西大会の総括として

   本会理事  関西国際大学   中西一彦

関西大会は百名を超える参加者にお集まりいただき、盛会のうちに終えることができました。「新たな流れが見えた」とのご感想もいただき、ただただ嬉しく思っております。

今回は、師走の慌ただしい時期の開催、しかも何かと「せわし」というイメージのある関西での開催であるだけに、プログラムはあえて、ゆったりとしたものとなるよう意識しました。そして、登壇される方々のお言葉をじっくりかみしめていただき、それぞれの心に刻み込んでいただけたらと準備いたしました。

発表者の皆さんは、それぞれご多忙の中、充実した資料とともに、サブタイトルとした「いま改めて大村はま先生に学ぶ」を具現化したご発表をいただき、会場全体に共感力が満ちあふれたように思います。坂東智子先生には、カリキュラムマネジメントの視点から、大村先生の実践をとらえていただきました。高井大輔先生には広島での修学旅行を実の場とした実践をおまとめいただきました。植田恭子先生には、横浜大会からの流れを引き継ぎ、またICT教育とも結び付けた、これからの単元学習の可能性を示唆していただきました。浜本純逸先生には、お二人の実践研究発表の

核心を浮き彫りにしていただきました。午後からの苅谷夏子さんの証言からは、改めて大村はま国語教室が、具体的な映像として浮かび上がり、そこに大村はま先生の言葉が聞こえてくるような思いにとらわれました。

橋本暢夫先生の隅々まで心を配られた資料とともに、綿密な構成によるお話には、ひたすら感銘を受けました。そして、関西での開催ということで企画した座談会においては、大村はま先生の関西でのご様子とともに、関わりの深かった清原久元先生を全国からお見えのみなさんにご紹介でき、感慨も一入でした。

今回、体調面から会場にはお姿を見せいただけなかった本会会長湊吉正先生からは、「展望」として原稿をいただき、苅谷事務局長にご代読いただきましたが、そこには、ご登壇いただいた先生方の取組に対して、ピタリと寄り添うお言葉がありました。さらに、大村はま先生の「実の場」への思いを深くするエピソードもご紹介いただき、文字通り次に継承される展望をお示しいただきました。また、中西一弘先生には、企画の段階からご助言いただき、会を成功に導いていただきました。

大会終了後開かれました懇親会におきましては、三十名の方々にご参加いただき、それぞれ笑顔の絶えない雰囲気の交流のなかで、大村はま先生への思いを語り合うことができ、これもまた有意義な共感の時間となりました。

準備段階で多くご心配をおかけした私の到らぬ点を参加いただいた皆様に支えていただいた大会となりました。最後にご挨拶だけでなく、終日ご参加いただきました関西国際大学教育学部長 濱名陽子先生に深謝いたします。ありがとうございました。

【展望】 本会会長 湊 吉正

本日、大村はま記念国語教育の会研究大会、関西大会が、関西国際大学尼崎キャンパスを会場に開催され、内容充実した実り豊かな会となりましたことは、たいへんめでたいこと、ありがたいことでございました。

これはまず、中西一彦理事、中西一弘理事をはじめと関西地区の本会理事、会員の方々、共催団体となってくださった日本国語教育学会の会員の方々、会場校となってくださいました関西国際大学の先生方、院生、学生のみなさんなど、国語教育への志のもとにご支援くださいました先生がたの、本日に至るまでのご尽力、ご協力のたまものであります。あつくお礼申し上げます。(中略)

本日は、また、第一回大村はま奨励賞の表彰式が執り行われた記念すべき日でもありました。応募された実践研究報告はいずれも、大村国語教室の精神が深く浸透している、ハイレベルの内容でありました。審査の結果、文集交流の実践を報告した埼玉県川口市立戸塚北小学校教諭、山本賢一氏が、第一回の受賞者となりました。ロンドン日本人学校補修授業校の河内知子氏との共同研究でした。誠実な実践を積み重ねる山本さんの今後のご発展が心から楽しみに思われます。そして、来年度以降も、会員のみなさまの大村はま奨励賞へのご応募を期待いたしております。

ここで、わたくし的な思いにかかわることですが、少し時間をいただきたいと存じます。苅谷夏子著『評伝大村はま ことばを育て人を育て』(二○一○年 小学館)の中で描かれた一つのエピソードです。以下、同書十三章「それから」549ページから読みます。(以下概略)

大村が亡くなる一年前の春、講演のため尾道を訪れた折、市内の小さな小学校に招かれ、全校の子どもたちのために話をした。自身の小学生の頃の話をし、「面白いと思ったこと、心が動いたことを、しっかりと覚えていよう、と思いながら暮らすといい」と結んだ。

この小さなお話に対する「お礼のことば」を児童会の代表が述べることになった。堂々と余裕のある態度で歩み出た少女は、「私は今、お話を聞いて三つのことを思いました」と語り始めた。メモ一枚もっていない。一つ目は、「心が動いたことはしっかりと覚えていよう、と思いながら暮らすこと」を、自分も実践しよう、と見事に言い切った。すると次の瞬間、ことばに詰まった。二つ目と三つ目を忘れたのだ。居心地の悪い沈黙が続く。もう切り上げるしかないか、と思われた時、少女が必死でことばをつないでいった。大村の話を少しずつ振り返り、自分の言いたかったことを探った。そして、最後にとうとう二つのポイントを思い出し、振り絞るようにしてスピーチを終えることができた。ただ、せっかくの謝辞も、自信と余裕を失い、整った形は崩れてしまった。とぼとぼと自席に戻る少女…。

「では、大村先生の退場です」とアナウンスされた瞬間、大村は「マイクをください」と大きな声を出す。慌てた司会者からマイクが回ってくると、大村は少女のいる方向を向いて、張りのある声で言い切った。

「すばらしいご挨拶でした。ありがとう。皆さんも聞いていましたね。すばらしかった。ああやってことばで伝えるんですよ。覚えておきましょう。ありがとう!」

大村はま先生は、そこで、当の女の子をはじめ、そこに居合わせた子どもたち、先生方の一人一人にたいして、ことばの力を身につける絶好の学習場面、「実の場」を構成し、提供してくださったと考えます。

森有正は、一九六七年に小学館から刊行された『遙かなノートルダム』の中で「経験が名辞の定義を構成する」と述べています。さらに、そのような経験の中では、たとえば、感銘を受けた芸術作品の一つ一つが、「美」という「ことば」に対する究極の定義を構成している、という趣旨のことを述べています。そこにおける「経験」は、いわば価値ある体験の積み重ねによって到達する一つの境位として解釈することができましょう。これに関連づけていえば、そこにおいて大村はま先生は、ご自身の経験的境位から「実の場」に対して一つの定義を構成された、と考えることができましょう。

さらに、私たちも、「教えること」「学ぶこと」において、ことばの力を見につける上での価値ある体験を、積み重ねることを通して、それぞれの経験的境位に到達し、それぞれに「実の場」の定義を構成することが可能になると考えます。

 

第13回 大村はま記念国語教育の会研究大会 ―関西大会―

研究主題 言葉を大事とする国語教室    ―いま改めて大村はま先生に学ぶ―

日時 平成28年12月3日( 土)10:00~17:00  9:30受付開始

会場 関西国際大学尼崎キャンパス  JR尼崎駅より歩5分

[午前の部]

開会行事・挨拶 湊吉正会長 安居總子理事長 高坂誠 関西国際大学副学長

研究発表 「大村はまのカリキュラムマネジメント力」         山口大学 坂東智子

実践研究発表 「インタビュー記事を書こう~今西祐行『ヒロシマのうた』の『語り』を読む~」

大阪市立磯路小学校 高井大輔 

「わたしたちが創るこれからの教科書」 大阪市立昭和中学校 植田恭子

研究協議 指導・浜本純逸 神戸大学名誉教授

[午後の部]

「第一回大村はま奨励賞」表彰式

研究発表 「大村国語教室 生徒からの証言」 本会事務局長 苅谷夏子  

研究発表  「大村はま先生の『自己を育てる』教育の原点」元鳴門教育大学 橋本暢夫

座談会「大村はま先生 関西での回想―清原久元先生と『平明』―」

元羽曳野市立小学校・高嶋幸治 大阪市立玉川小学校・高砂和滋 

 奈良学園小学校・竹野恵子  関西国際大学・中西一彦

展望 本会会長 湊吉正

閉会行事・挨拶 元大阪教育大学 中西一弘