黄金の椅子

HP用黄金の椅子

大村はまの最後の勤務校、大田区立石川台中学校で、常に大村のそばにあった一脚の椅子。これを当時の研究リーダーであった倉澤栄吉先生が「黄金の椅子」と呼んだ。生徒のそばに寄り添い対話を生んだ、木の「黄金の椅子」である。
 

 

この椅子、いろいろの子どものそばに寄せて、そのときどき、その一人と、ことばを学び、語りあってきた椅子です。 

ある授業のときでした。私は一人の子どもに話したいことがありまして、ふと、そこにあったこの椅子にかけました。話しながら、それまで知らなかったような語りごこち、教えごこちを味わいました。ほんとうに、一人と一人、という気分でした。ほんとうに、子どもを見下ろさない姿勢でした。

私は、子どものそばに、腰を低くして寄りそうという、教室の大切な姿勢を学んだのです。

               NHK「私の自叙伝」の冒頭で大村が椅子を手に語ったことば

 

2021年11月 石川台中学校での研究大会に

「黄金の椅子」が運び込まれる

この椅子は、41年前までこの石川台中学校の大村国語教室で日々大事にされてきたものです。大村先生はあの椅子を生徒の傍らに置いて、一人一人と対話しました。そういう時その場に、親密といっていいような、とても真剣な、大事そうな空気が生まれたことを、生徒の一人であった私は覚えています。
話し合いの時は、教室の一角にさりげなく置かれ、生徒の一人のようになって大村先生は発言しました。そうやって、ことばが交わされ、実り、力が育っていった。大村はまという教師の教える姿勢、育てる姿勢の象徴のような存在でした。それで、倉澤栄吉 本会初代会長によって「黄金の椅子」と名付けられていました。配布資料をご覧ください。

日は、この椅子を大事に保管なさっているご親族のご厚意により一日お借りすることができました。今日の研究大会を先生の椅子に見守ってもらうわけです。

 

「黄金の椅子」復刻版の制作

   ―学校家具の製造会社 帝国器材株式会社が着手

   2021年11月 石川台中学校での研究大会にて発表

 

2021年9月のことです。帝国器材株式会社の中野さんという方から、この椅子についてのお問い合わせが本会事務局にありました。「大村はまさんの黄金の椅子は我が社の製品なのではないか」というのです。その後、調べは順調に進み、栃木のご親族 大村務さんによりその事実が確認されました。さっそく栃木まで飛んでいった中野さんはご親族のご快諾を得て、帝国器材株式会社で「黄金の椅子」の復刻版が限定製作されることになったのです。
そしてまったく思いがけないことに、同社のご厚意で、大村はま奨励賞の副賞として贈呈いただけることが決まりました。(会場、どよめく)
それでは帝国器材株式会社企画開発部 中野喬介さんにご挨拶をいただきます。

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ご挨拶          中野 喬介

帝国器材株式会社 企画開発部の中野 喬介と申します。大村はま先生の黄金の椅子を製造しておりましたメーカーとして、簡単に弊社の紹介をさせていただければと思います。 
帝国器材株式会社は1937年に創業、12月で84周年を迎える会社です。設立当初は軍需工場として、弾薬を入れる木箱の製造業務を担っておりました。戦争が終わり人口は急増、学校の整備が進む中で弊社は学校家具を製造することとなり、終戦から76年経つ今もなお「木製学校家具の製造」が主な事業であります。現在は国産材、つまり日本の森で育った木の活用に取り組んでおり、「美しい風景を未来に届ける」ということを大切にしながら学校家具の製造を行なっております。
そんな中、1963年6月に製造しました丸椅子が石川台中学校で大村はま先生にご愛用頂き、今日も「黄金の椅子」として大切に思われていることを知り、大変感激いたしました。長年、学校家具を製造してきた我が社の、誇らしい気持ち、愛用いただいたことへの感謝の気持ち、そしてより多くの方に大村はま先生のことを知っていただきたい、という気持ちが重なり合い、何か行動を起こしたいと思いました。
何をするか色々と考えましたが、やはり弊社はモノを作ることが仕事ですから、復刻生産することを事務局の苅谷様と相談させていただき、ささやかながら「大村はま奨励賞」の副賞として贈呈させていただく運びとなりました。本日は復刻品をお渡ししたいと思っておりましたが、生産が間に合わず、目録の贈呈となりましたこと、お詫び申し上げます。
今後は微力ながら、この復刻生産を皮切りに、弊社の直接的な顧客にあたる学校施設をつくる立場の方々に、大村はま先生のことを周知できるよう努めてまいります。それにあたり、苅谷様をはじめ大村はま記念国語教育の会の皆様に色々とご相談・ご協力をお願いすると思いますが、どうかお力添え頂ければ幸いでございます。
誠に簡単ではございますが、弊社の紹介と、この度このような機会を頂きました御礼のご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。

 

 2021年秋、第五回大村はま奨励賞受賞の阿部千咲さんに黄金の椅子復刻版の目録が贈呈されました。
 この復刻された「黄金の椅子」が、受賞者にとって誇りとなり、愛用されて、子どもたちの傍らに置かれ、間に置かれて、いきいきとした教室を生む助けになることを祈りたいと思います。来年以降も、この椅子が欲しいと、大村はま奨励賞に挑戦する方々も生まれるのではないでしょうか。

 そして今年、11月6日、横浜元街小学校大会にて、第七回大村はま奨励賞授賞式が執り行われ、東京都の数井千春さんに副賞としてこの黄金の椅子が贈られます…