平成28年度国語教育研究会報告

平成28年度 第18回 国語教育研究会が6月5日、浦和にて開かれた。集中力を試されるような長い一日であったが、若い参加者も最後まで真剣なまなざしでご参加くださった。以下に簡単な報告を掲載する。

第18回国語教育研究会 研究主題

「豊かな言語生活を拓く国語教育の創造」 ~主体的・協働的な課題追究活動としての単元学習の開発~

 挨拶  

中山 厚子(南部国語の会会長)

…この会場入り口にあるパネル写真は、本会を誕生させてくださった埼玉大学名誉教授の井上敏夫先生、日本国語教育学会会長の倉澤栄吉先生、大村はま先生が平成14年度にこの会のご指導においでくださったときのものです。今日は、故人となられた先生方のお写真もご一緒です。私たちの小さな教室から、未来に生きる人、世界に活躍する人が生まれます。そのためにも、本日が豊かな一日となりますようにどうぞよろしくお願いいたします。

 2 講演Ⅰ「学習者に寄り添った課題とは」

青山由紀(筑波大学附属小学校)

 …知りたい、見たい、聞きたい、読みたい、人に伝えたい、「たい」がたくさん泳いでいる。その後、やり遂げるという「とげ」まで行かないと、次に言語生活に結びついていったり、他の単元に結びついていったりしないのではないか…

3 研究Ⅰ  研究協議Ⅰ 

小学校提案「世界の民話のおもしろいところをしょうかいします!―『三年とうげ(李錦玉)』(光村図書三年下)世界の民話― 」

櫛引千恵(八潮市立八條小学校)

…まず、手立て2です。単元の目標であります、物語の組み立てをとらえるために、p.8のように、民話屏風を作成することにしました。屏風の4つの面と起承転結の4つを組み 合わせ、1曲目に「始まり(起)」、2曲目に「出来事の起こり(承)」、3曲目に「出 来事の変化」、4曲目に「むすび」というように、屏風の4つの面に書いていきます。こ のあらすじを書くときの方法は、白石範孝先生の「~が、~によって、~になる話」を用 いました。中心人物が、出来事によって変化することをとらえるのに、とらえやすいと考えたからです。…

中学校提案①「主体的な読み手を育てる学習指導の工夫―生活読みの理論を根底に―」「演じよう 文学の世界」『故郷(魯迅)』(光村図書三年)

廿樂裕貴(埼玉大学教育学部附属中学校)

…そこで、本単元では、「演じよう 文学の世界」という単元名で、言語活動「脚本を作 り、『故郷』の世界を演じよう」を設定した。…演じるという言語活動は、自己を投影す ることでなり立つものである。したがってルントウが「旦那様!・・・・・・」と言ったのはな ぜなのかという疑問を考えるうちに作品世界に潜っていき、登場人物の内側に入り込んでいくことが生徒たちにもできるだろうと考えた

中学校提案②「言葉に着目した『書くこと』の指導の工夫」

松浦達也(上里町立上里北中学校)

…本授業では、【「ことば」を見つめよう~「折々のことば」より~】というタイトルのもと、「折々のことば」に紹介された梅原猛氏の「これは偉大なる空振りです」という「ことば」に対して、鷲田氏の考えを踏まえて思考し、表現する授業を展開しました。「ことば」に対する生徒の思考を耕すための手引きとして、提案資料の9ページに示したようなものを考えました。「折々のことば」の記事の下に手引きを書いたものを印刷して、生徒に配布しました。…

高等学校提案「源氏物語を読む」古典B

浅見 愛(埼玉県立新座柳瀬高等学校)

…その後ジグソー班になりました。ここで、今回の命題である「源氏物語はなぜ多くの人に読まれてきたのか」を考えました。まず、A・B・C・D班それぞれの情報を共有し、それをメモさせました。その後、命題の理由を文章で考えさせました。…その後、各班の文章を発表するクロストークをしました。最後に、生徒に再び、源氏物語の印象を書かせ、ジグソー法の感想も書かせました。以上が2時間の実践の流れです。

(研究Ⅰ 全体総括) 

山下 直 (文教大学)

…日本国語教育学会で積み重ねて来た単元学習の実践は、正に活動の質をいかに深めていくかということを追究してきたわけです。その意味では、アクティブ・ラーニングは単元学習で蓄積してきた成果と間違いなく繋がっていくものと言えます。

4 研究Ⅱ  証言「大村国語教室の『実の場』の実際Ⅱ」

苅谷夏子(大村はま記念国語教育の会事務局長)

中山厚子(日本国語教育学会・大村はま記念国語教育の会常任理事)

…大村はまの怒りに、いつ火がつくのか。思い返すと全部一つのことに収斂するようです。それは、学ぶということを「実の場」にしたいしたいと願って大村先生が思いつく限りの手立て、心がけ、工夫を集中させて営んでいた教室の中で、私たちが学ぶということの主体性を自ら手放した時です。… (苅谷夏子)

5 講演Ⅱ  「大村はま『私たちの生まれた一年間』のビデオ視聴とコメント」

桑原 隆(日本国語教育学会理事長・筑波大学名誉教授)

…最後の場面で生徒に、大村先生自身が一つの文を作って、「言ってご覧」と言わせていました。あれも大村流の一つです。大村先生はその場で取り上げて指導する。大村先生の授業は、学習材を生徒が作り出していくところに、非常に巧みなところがあるように思います。学習過程の先を見通しているのだと思います。…

6 講演Ⅲ  「オックスフォードから考える『学ぶ』ということ」

苅谷剛彦(オックスフォード大学)     

…あまり素直に受け止めるのではなくて、そこにどんな問題があるのかということを考えるような教師の批判的思考力がとても重要です。素直な教師が、子どもに批判的な思考力をつけることができるのか。自分が批判的な思考力を持っていないのに、人に批判的な思考力を与えられるか、教えられるか。…

7 展望     「対話の特質をめぐって」― 表現・解釈の交替的進展の意義 ―

 湊 吉正(大村はま記念国語教育の会会長・筑波大学名誉教授)

…以上、(1)(2)(3)の境域を基盤として、文化創造の境域が位置づけられることになりますが、これからの日本における言語文化、人間文化の創造と伝承を進めていく上で鍵となるのは、共同体の人々の学習活動、水準の高い教育環境の支えの上に展開されていく人々の学習活動であると考えられます。そこで、そのような学習活動の基本的形態としての意義深い対話の存在が浮かび上がってくるようにみられます。…

参加者の声より

…私は今回の研究会で廿楽先生の研究に注目した。演劇を通して作品理解をすることはとても効果的であり、生徒たちの特性や指導内容によって工夫することで、より充実した授業を構築することができると学んだ。教師が一方的に話す授業だと生徒は表面部分のみの理解に留まりがちだが、演じることによって様々な効果が期待できる。本文の真の面白さに到達でき、その感動を忘れることはないと同時に、他の作品への関心を引き出せる可能性もあるので、素晴らしい工夫であると思う。…  定方 美優希(聖学院大学)

…今回、研究会に参加させていただいて、改めて国語教育の奥の深さと、難しさを感じ、身の引き締まる思いを抱いた。著作物からしか見えてこなかった大村はま先生が、実在の国語教育に人生を捧げた一教師としての人柄を知ることができたのも嬉しかった。「実の場」という言葉を私は、わかったつもりで安易に使っていたと感じずにはいられない。大村先生の「怒りのスイッチ」のエピソードを聞いて、子どもの主体性が「実の場」というものを考えるときのキーワードにもなり、それ自体が最大の教師の役目なのではないかと考えた。今後の授業作りをしていく中で大いに参考となる先生方のお話だった。 加藤 哲郎(三芳町立三芳小学校)

今回の成果と課題より

…また、昨年までに比べて、大学生、大学院生の参加者が大変多くなった。教員を志す若い人たちに、国語科学習指導の理論や実践、また著名な研究者の講演を身近に聞いていただける場を提供することができたことも、研究会の成果の一つである。特に、実践提案やその協議を通して、埼玉県における国語科学習指導の基盤の一つである、井上敏夫先生の「生活読み」の理論について、若い世代の参加者に認識してもらう機会を提供することができた意味は大きい。…  南部国語の会 中村 敏男

…なお、今大会は大学生・大学院生の参加が多く見られた。私の勤務校からも10名の学生が参加した。いずれも教職を目指しているが、研究会に参加するのは初めてという学生たちである。各発表や講演、質疑を通して、多くのことを学びとっていた。それらの学びを語る言葉の端々から、そして、その後の授業に向う態度や発言から、彼ら彼女らが一日で大きく成長したことを感じている。…  南部国語の会 熊谷 芳郎

 

 

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